世界観考察・キャストの食事

約4分


「まぁ、素敵なお店ですわね」
 フランカ・カフェを訪れたカトリは店の内装を見て感嘆の声を上げた。店内はそれなりに混雑しているが、天井は高く広々とした作りをしているので窮屈な印象は受けない。テーブルや椅子などの調度品だけでなく、床や壁などにも木材が使われている。観葉植物もありがちな模造品ではなく全て本物だ。全体的なデザインはくつろぎやすいよう落ち着いたものだが、貴重な天然建築材をふんだんに使った内装は、宇宙船で生活するというオラクル船団の環境を考えればかなりの贅沢だ。
「サガさんもそう思いますよね?」
 カトリは振り向き、黒いボディのキャストに同意を求める。
「私は飲食店の内装に関する判断基準は持っていない。さっさと食事を済ませるぞ」
 サガはまったく興味を持たなかった
「まったく、相変わらず冷たい方ですこと!」
 自分のような超絶美少女とおしゃれなカフェで食事をするというのにまったくの無感情でいるなど信じられないと、カトリは憤慨して頬を膨らませた。
 案内された席についた二人は店員から渡されたメニューに目を通す。
 さてどれにしようかとしばらく悩んだ後、カトリはカレーライスに決めた。メニューの説明には、最近発見された地球という惑星の文明から伝来したとある。その真新しさに彼女は惹かれた。
「すみません、注文よろしいですか」
 ちょうど近くを歩いていた店員を呼び止め、カトリは料理を注文する。
「この、カレーライスというのをお願いします」
「私はキャストドリンクを頼む」
「かしこまりました」
 注文を受け取った店員は一礼の後に去っていく。
「サガさん、普通の食事はされないのですね」
 先程サガが注文したのは、普通の食事が出来ないキャスト用の栄養補給ドリンクである。
「ああ。このボディは人工臓器搭載型ではないからな。栄養摂取は脳細胞の維持だけで十分だ」
「珍しいですわね。今の時代、生身と同じ食事ができるボディが主流ですのに」
「たしかにそうだが、この方が手軽に栄養補給が行える」
 肉体を機械化した人種であるキャストが誕生された直後は、サガのように栄養液を補給して脳の健康維持だけを行っていたという。その後、人間性を維持するための味や食感を再現した代用食の時代を経て、今は食品を原子レベルまで分解可能な人工臓器が開発されたことで、キャストは生身の種族と同じ食事が可能になった。
 それがキャストの食事事情であるとういことを、カトリは子供の頃の教養学習で教わったことを思い出す。
「人工臓器搭載型に換装しないのですか?」
「必要性を感じない。なぜそのようなことを提案する」
 サガはカトリの質問の意図を理解できないらしく、不思議そうに首を傾げる。
「だって、そのほうが楽しいではありませんか」
「個性的な見解だな。私のようなキャストに一般的な食事を推奨する際、人間性をの維持を理由とするのが通例だ」
「そんなの、人生楽しければ自然と身についてきますわよ」
「……」
 良いことを言ってサガを感心させようと思ったカトリだったが、彼は無反応だった。
 完全に滑った。
 しばらく気まずい沈黙が続いた後、店員が注文した品を運んできた。
「まあ、美味しそう! いただきますわ」
 料理が来たのでカトリは気持ちを切り替える。
 初めて口にするカレーライスは刺激的で魅力的な味だった。空腹が満たされると同時にカトリは幸福感に包まれる。
 一方でサガはキャストドリンクの容器を胸部の供給口接続してボディに栄養液を取り込む。
「食事一つで、随分幸せそうだな」
「ええ、美味しい食事は幸せの基本ですもの」
 サガの呆れたような口調には気づかず、カトリは満面の笑みを浮かべて答えた。
「なるほど、食事か。検討の余地はありそうだな」
 ポツリと呟くサガの声に、カトリはカレーライスに夢中で気づかなかった。

考察

 これまでのシリーズと異なり、PSO2のキャストはサイボーグであると設定されている。体の機械化率は劇中で明言されていないが、少なくとも脳は生身のままであるのは確実なので、脳の活動維持のために栄養を取る必要がある。
 合理性のみを追求するならば、最低限の栄養補給をしてボディ自体はバッテリーの充電などで済ませれば十分だろう。しかし、それで良いと考える人はいるだろうが、普通は人間らしさを保つために、なるべく生身の頃の習慣を維持するはずだろう。また、キャストの料理人も2名登場しているので食事文化があるのは確かだ。ただし、先述の合理性を優先したい人はいるだろうから、機械的な栄養補給のみのボディの需要はありそうである。

Comments

  1. By ブラックバレット@SHIP3

    キャスト以外の普通の服を着てるのが消化器官搭載型・・・(見た目ナマっぽくなりますし)
    キャストボディで搭載しているのも当然いるでしょうけども・・・
    そう言えばナマの脳搭載なので栄養補給は必要なのですな(ロボコップも最低限の内臓は残してましたな)

    ん、ドラえもんみたいな排出を行わない消化方法ならトイレ等も行かないので汗かいたり色々出たり()はしないのか・・・ちょっとそこは残念?

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